アスリートの華やかな成果の裏には、目には見えにくい“地道な積み重ね”がある。

第1弾第2弾では、ロサンゼルス・エンゼルス所属のグスタボ・カンペーロ選手とパーソナルコーチの谷口 容基さんがともに歩んできた道のりや、メジャーリーグの舞台に立つまでの過程をお届けしてきました。そして連載の最終章となる本記事では、世界最高峰の舞台・WBC(World Baseball Classic)で見えた“リアル”に焦点を当ててお話を伺います。

プレッシャーの大きい環境の中で、カンペーロ選手は何を感じ、何と向き合っていたのか。

そして、カンペーロをすぐそばで支える谷口さんは、どんな葛藤と責任を背負っていたのか。

結果だけでは語りきれない、WBCの舞台裏に迫ります。

メジャーリーガーも、完璧ではない

谷口さんはパーソナルコーチとして、カンペーロ選手にどのくらいの期間帯同されましたか?


2025年12月から開催されたコロンビアウィンターリーグから、カンペーロにパーソナルコーチとして帯同することになり、2026年のWBC終了まで生活をともにしました。

当時、カンペーロのWBCコロンビア代表入りが確約されていたわけではありませんでしたが、周囲は「絶対に選ばれる」と見ていました。ただ、本人は「代表の座は与えられるものじゃない。自分たちの手で勝ち取らないといけない」と語っていました。

2023年のWBCでもコロンビア代表としてプレーしたカンペーロですが、もともとはメンバー候補に入っていませんでした。大会前年のウィンターリーグで結果を残し、そこから選出された経緯があります。

カンペーロはメジャーリーガーとして、2026年大会の代表入りが確実視される立場にありながらも、前回の自分のように“新たに枠を奪いに来る存在”が現れる可能性を理解していました。だからこそ彼は、「自分の枠は自分の手で勝ち取り続けるものだ」という強い意志を持ち、一球一球に真摯に向き合っていました。

コロンビアウィンターリーグに参加された当時、カンペーロ選手にはどのような指導を行なっていましたか?


彼のプレーの傾向や癖を理解し、それをどう修正すればいいのか、どんな言葉なら伝わるのかを探る期間は苦労しました。ただ、1月に入った頃から、彼がどんな感覚で野球に向き合っているのかが少しずつ見えてきて、アドバイスの精度も高くなってきました。

その一方で、毎日意識していることを常に完璧にできるかというと、そうではないんです。正直「MLBの選手でもそうなのか」と驚きました。

例えば、打席に立つ時に「タイミングに遅れてはいけない、差し込まれてはいけない」と分かっていても、シーズンを通せば必ず遅れてしまう場面は出てきます。本人もやるべきことは理解している。それでもできないことがある。

そこに野球の難しさがあると痛感しました。

どれだけ高いレベルでプレーしていても、選手は葛藤と戦っているのですね。


そうですね、世界のトップ選手であっても、「うまくいかない」と感じながら、毎日もがいているんです。

僕も最初は「メジャーリーガーってすごい」と、どこか観客のような気持ちで見ていました。でも、間近で接してみると、彼らもやっぱり人間なんだと感じます。普通に怒るし、落ち込むし、喜ぶし、騒ぐ。根本は僕たちと何も変わらないんです。

もちろん、メジャーリーガーの野球のレベルに対するリスペクトはあります。ただ、グラウンドを一歩出れば、カンペーロも一人の父親です。子どもと遊び、奥さんを大切にする姿は、世の中のお父さんたちと変わりません。

カンペーロと一緒にプレーしているマイク・トラウト選手や菊池 雄星選手も同じです。遠い存在でありながら、近くにも感じる。ただ彼らと僕は違う世界にいるだけで、そもそもの本質は変わらないんだと思います。

カンペーロにとって二度目のWBCへ向けて、万全の準備

カンペーロ選手がコロンビア代表に選出された後、WBCに向けてどんな準備をされましたか?


まず準備をしたのはバッティングです。狙い球の設定やランナーの状況など、さまざまなシチュエーションを想定しながら、ティー打撃やマシン打撃に取り組んでもらいました。こうした戦略をもとにルーティーンも構築しました。

それと相手ピッチャーのデータを見て、投球の傾向を理解することや、癖を見つけることも対策の一環として行ってきました。大会前のゲームやオープン戦を見ても状態は良かったですし、カンペーロ自身のモチベーションもすごく上がっていましたね。

メンタル的な部分では、カンペーロがストレスを溜めずに生活できるように、マッサージをして早く寝られる生活習慣を作ったり、WBCの大会期間中は相部屋だったんですけど、あえて僕が部屋にいない時間を多く作ったりしていました。

僕たちの中では万全の状態で大会に臨んだつもりでした。

相手のデータや傾向を全て頭に入れるのは難しいのでは?と思ってしまいます。


もちろん、できるだけシンプルにしました。データのインプット量は多いですが、アウトプットは最小限に抑えることを意識しています。その中で、「こういう風にしよう」というポイントを1つか2つに絞って伝えることも、自分の役割だと捉えてやってきました。

ポイントを絞り込むのは、かなり難しかったのではないですか?


正直めちゃくちゃ大変でした。でも、カンペーロに対しての思いは人に比べて何倍もあるので苦痛には感じなかったです。

僕はカンペーロの兄弟でもあり、仕事のパートナーでもあり、一番のファンでもあると、本人にも周りにも伝えています。

僕としては、カンペーロに本当に頑張ってほしいんですよ。母国のコロンビアでは山道を走ってトレーニングをして、1人でドミニカ共和国に渡ってカルチャーショックを受けて、そんな厳しい環境で生きてきたからこそ、ハングリー精神がとても強いです。

常に「自分がどうすれば生き残れるか」を考えているイメージがあります。練習もただ数をこなすだけではなく、1日の決まったメニューをきっちり継続できるところが強みだと思いますね。

そんなカンペーロは、自分がカルチャーショックを受けた経験から、僕のことを「日本から地球の裏側に来て、自分よりも何倍も大変な経験をしているんだなと感じた。言葉も文化も分からない環境で、自分にはとてもできないと思う」とリスペクトしてくれています。

だからこそ、僕も彼の姿勢から学ぶことが多いと感じています。

1次ラウンド敗退に終わったWBC

大会を振り返って、今のお気持ちはいかがですか。


自分の仕事に対してはベストを尽くしたと思っています。外国のチームに日本人が帯同しているケースもあまりないので、貴重な経験でした。

ただ、結果が伴わなかった以上、自分の力が不足していることも実感しました。指導者としてはもちろん、一人の人間としてもまだまだ高めていかないといけないなと思います。

もう一段、二段とレベルを引き上げないと、上の世界は見えてこないとWBCが教えてくれました。

印象に残った場面を教えてください。


今大会の初ヒットとなった、キューバ戦でのツーベースヒットです。カンペーロが結果を出すということは、僕自身が結果を出したことでもあります。

一本を打つことの難しさは僕も彼も分かっているので、それを世界の舞台で体現してくれたことは本当に嬉しかったです。

その一本で気持ちが軽くなったようで、同じ試合の中でホームラン性の当たりもありましたが、フェンス前で捕られてしまいました。

続くパナマ戦でも状態自体は良かったですが、結果としてはノーヒットに終わりました。

今大会、カンペーロ自身が不調だったとも、実力不足だったとも思っていません。プレッシャーなどの外的要因が影響したと感じています。だからこそ、彼の持っている力を最大限引き出せなかったことは、僕自身の大きな反省点です。

大会期間中はカンペーロ選手とどういったお話をされましたか?


カンペーロは、不調のときに周囲からあれこれ言われることをあまり好まないタイプなんです。僕自身も、余計なノイズは入れたくないと考えていました。過去のウィンターリーグでも、不調の時期をともに過ごしてきた経験があったので、今回の大会でも基本的には見守ることに徹して、あえて口数を少なくしていました。

ただ、単に声をかけないのではなく、その意図はきちんと本人に伝えています。

「結果を出すためにも、野球から離れている時間はしっかりリフレッシュしてほしい」と言葉をかけて、あえて距離を取るようにしていました。

実際にカンペーロ自身も、「ひろきがあえて声をかけない理由は分かっている」と話してくれていました。会話自体は少なくなるので、距離が離れた感じはしますが、意思疎通はしっかりと取れています。

周囲からは「仲悪くなったの?」と思われることもあるかもしれませんが、お互いにとってベストな形を考えた上での関わり方でした。

悔しさを胸に、いざ2026シーズン開幕へ

大会終了後、カンペーロ選手にどのように声をかけましたか?


スプリングキャンプ地のアリゾナに戻って、部屋でカンペーロと話をしました。彼は「俺の気持ちとしては大丈夫だ」と言っていましたが、「大丈夫なわけないだろ」と伝えました。

「今回は結果を残すことができなかった。お前の結果は俺の結果なんだ、だから同じ気持ちなんだ。何も感じないわけがないし、落ち込んでもいいし、悔しがってもいい。ただ、同じ失敗はもう二度としたくない」と話をしましたね。

今大会はあれだけ準備をして、万全の状態で臨んだのに結果は出なかった。これを学びにして、今後カンペーロが出場する可能性があるオールスターゲームやプレーオフ、ワールドシリーズ、そして次のWBCでは、この経験を活かして頑張っていこうという会話もありました。

カンペーロ自身も「この悔しさをバネに2026シーズンを頑張りたい」と話していました。

そしてアリゾナに帰ってからは所属チームのロサンゼルス・エンゼルスの練習と試合に行くことになったので、僕の今回の役割は終わったなと思って予定より早めに日本へ帰国しました。

もちろん彼の結果は逐一チェックしていますし、映像を見てアドバイスもできるので、距離は遠くなりましたがコミュニケーションを取っていこうと話はしています。

総じて、今回帯同させてもらった経験と、その機会をくれたカンペーロに心から感謝しています。

2026シーズン、カンペーロ選手のどのような活躍に期待していますか?


2026シーズンはマイナーからスタートの予定なので、まずはメジャーリーグのロースターに入って、ゆくゆくはレギュラーになって活躍してほしいです。

カンペーロは20本塁打、20盗塁もできると思うので、そこを目標に頑張ってほしいです。カンペーロが所属するエンゼルスの外野のポジションは現状ほぼ固定なので、彼がそこに割って入っていけるか。中堅手のマイク・トラウト選手はMVPを過去3回受賞しています。WAR(Wins Above Replacement)でもメジャーリーグ屈指の数字を誇る、エンゼルスを代表する選手です。また、2025年に37本塁打を放ったパワーヒッターである右翼手のジョ・アデル選手も快進撃を続けています。

ライバルは強力ですが、やっぱりシーズンを通して怪我での離脱や成績が出ない時期が来ると思うので、そのタイミングでカンペーロが入っていけるかが鍵になると思います。

僕はカンペーロならやれると思っています。彼は貧困層で生まれて、決して恵まれたとは言えない環境からメジャーリーグの舞台に辿り着いたんです。その生き様に比べれば今成し遂げようとしていることの方がハードルは低いと思います。

最後に、読者の皆様へメッセージをお願いいたします。


ドミニカ共和国のアカデミーで生活をともにした選手の中から、カンペーロを含めて3人がメジャーリーガーになりました。正直、こんな未来は想像していなかったです。同じ場所から、3人ものスーパーヒーローが生まれるなんて。

11年前に出会ったあの無邪気な少年たちが、今は世界最高峰の舞台で戦っています。その姿を目の当たりにすると、自分がこれまでやってきたことは間違っていなかったんだと、報われるような気持ちになります。

自分にもカンペーロにも、元々特別なものはなかったんです。でも、自分の目標に対して毎日一生懸命に向き合えば、将来全然違う景色が見える可能性があることを、僕は自分自身の人生で経験しました。この事実はカンペーロから教えてもらったことでもあります。

そして、挑戦する子どもたちが増えれば増えるほど、コミュニティ、そして地域や日本は活性化されると信じています。

幼いうちから「これは無理だから」「才能がないから」と思ってしまう子も多いですが、そんなことを気にする必要は全くないです。自分の可能性を信じてほしいし、少しずつでも自信を持ってほしいと思います。

大切なのは、周りと比べることではなく、自分なりに積み重ねていくことだと思っています。

たとえ今試合に出られなくても、5年後、10年後にどうなっているかは誰にも分からないことです。だからこそ、目の前の一歩を大事にしてほしいと思います。

ぜひ、自分の人生を自分の力で切り拓いてください。

おわりに

11年前にドミニカ共和国で出会った無邪気な少年たちが今、世界最高峰の舞台で戦っています。そこにあったのは、特別な才能ではなく、目の前の毎日を積み重ねた実力でした。

WBCでカンペーロ選手と谷口さんが突きつけられた現実は、決して残酷なものではありません。自分たちの現在地を知り、次に進むための指針でした。

たとえ今、結果が出ていなくても問題ありません。未来がどうなるかは、誰にも分からないものです。

だからこそ読者の皆様にも、目の前の一歩を大切に積み重ねていただきたいと思います。その先には、想像もしていなかった景色が広がっているかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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「寄り添う指導」の原点は挫折にあった。挑戦を続ける男が次世代へ託す思いとは【谷口容基インタビューvol.1】
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諦めない男・カンペーロと二人三脚で切り拓く夢への道【谷口容基インタビューvol.2】
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