クラフトビールから全国に繋がる「角田のまど」1人の大学生が、クラフトビールで地域ブランドを立ち上げる
伊藤智己

「貴方の地域は、何が有名ですか?」


他所の街に住んでいる人にそう聞かれたとき、何か思い出せるものはあるでしょうか?貴方が住んでいた地域に関わりがなかった人は、町名を聞いただけで何かをイメージしてくれそうでしょうか?


日本には、およそ1700以上の自治体が存在します。知らない土地や、名前は知っていてもその地域のことについて何も思い出せない人は少なくありません。


「自分の地元にはこれ」と胸を張れる地域ブランドが不在である。


生まれ育った場所と、その地域の人たちが好きで、何か自分もやれることを見つけたいと考えた1人の大学生が東北で、一から企画を立て、これからの「地域の顔」になるかもしれないブランドを創り上げました。


それが「角田のまど」角田市のみんなで作る角田市のクラフトビールです。


今回は宮城県角田市の新しい地域ブランドの立役者である東北芸術工科大学4年生の粟野ひよりさんに、クラフトビール「角田のまど」の制作秘話と、粟野さんの考える地方創生についてお伺いしました。


ぜひ、最後までご覧ください!


企画の背景

1-1. なぜ、クラフトビールを作ろうと思ったのでしょうか?

このプロジェクトは、大学の卒業制作の一貫で行ったのですが、地元の宮城県角田市(以下、角田市)のために何かしたいと以前から考えていました。


私が生まれ育った角田市は、宮城県の南部に位置し、昔から米・梅・豆が有名な地域で、ふるさと納税の返戻品でもよく選ばれています。


また、仙南クラフトビールというインターナショナル・ビアカップ(IBC)で金賞を受賞するような世界的にも評価の高い地ビールも地域の誇りともいうべき存在感を放っていました。しかし、製造を行っていた仙南シンケンファクトリーは2025年2月に醸造を終了し、2025年3月にはレストランも閉店となってしまいました。


様々な事情があるにせよ、地域の顔ともいうべきブランドがなくなってしまったことは、地域にとって大きな損失であると考えました。


角田のために何かできることはないか。そう考えた時に、私自身もクラフトビールが好きで、様々な地域を訪れた際には購入し、飲んだときにはその地域での出来事や旅行を思い出すことができることに気付きました。


今でも、過去に飲んだクラフトビールの缶を家に飾って大事に保管しています。仙南クラフトビールがなくなった今だからこそ、角田の原材料を使ったクラフトビールを作ることで、地域活性化に繋がらないかと思い、企画を行いました。


1-2. なぜ「角田のまど」というネーミングにしたのでしょうか?

ビールを飲んだ人が、缶を窓に見立てて角田市の風景を思い出して欲しいという想いでこの名前をつけました。


最初は、角田IPA(India Pale Ale:インディア・ペールエールの略)・角田ビールのようなシンプルな名前から、英語でオシャレにしようかなど、100案ほど考えていました。友人にも意見をもらって進めていたのですが、地方には年配の方も多いこともあり、老若男女問わず地域の方に愛されるような名前が良いなと思って、最終的に「角田のまど」になりました。


ちなみに、ラベルのデザインは、1ヶ月近くかかりました。皆で作るというコンセプトも大事にしたいと考えていたので、2025年7月7日~17日までの10日間、道の駅かくだで皆の「心に残る角田市の風景」をアンケートボードに書いてもらい、その結果を参考にさせていただき、今のようなデザインにたどりつくことができました。


角田産のお米を使い、みんなと作ったビールとして、訪れる人にとっても、住む人にとっても良いものを作りたいという想いを込めています。


地域との連携プロセス

2-1. このプロジェクトの協力者はどのように募っていったのでしょうか?

クラフトビールを作るにあたって、まずは作ってくれる人を探す必要がありました。


仙南クラフトビールの跡地で営業を行っている方に、話を聞きに行った際に、「自分たちではクラフトビールを復活させるのは難しいけれど、とても良い取り組みだからブルワーとしての経験が豊富で、お米を使ったお酒作りも得意とされる株式会社イーチ・アザー(ISHINOMAKI HOP WORKS)の岡恭平さんを訪れてみてはどうだろう?」とアドバイスをいただきました。


岡さんにも事情を説明し、快諾いただきプロジェクトを進めることができました。当初、商品を出すことを優先しようと岡さんからはご提案いただいたのですが、「角田のまど」は、角田産のお米を使ったクラフトビールにしたいという強い要望から、仕込みのスケジュールも調整していただきました。


続いて、考えないといけないのが完成した「角田のまど」の販路です。


そこで、目をつけたのが道の駅でした。


道の駅かくだは、来場者数が6年目で累計500万人を突破するなど、角田市も地域外からの訪問者が増加しています。


一方で、お土産や角田を象徴するような製品が少ないため、せっかく訪れた観光客が何も買わずに帰ってしまう機会損失を生んでいました。

関係人口で換算すれば100万人規模の都市ではあると思いますが、さらなる地域の賑わい創出・雇用創出の観点からいえば、外で戦える地域ブランドの創出が必要です。


こうしたなかで「角田のまど」が角田市の新たな顔・地域ブランドになれば、角田のお米を知って興味を持ってもらうきっかけが生まれると考え、道の駅かくだにご協力いただき、無事に置いていただけることになりました。


「角田のまど」ブランドを起点に角田を知ってもらうことができれば、角田は良い街のため関係人口に繋がると思いますし、新しい特産品の創出も期待できます。


最初の知るきっかけとして元々地域の顔だった地ビールに代わる「角田のまど」が多くの人に愛され、地域を象徴する1つのコンテンツになれば嬉しいです。


2-2. 2025年10月25日(土)の完成披露会は市長をはじめ、多くの方にご参加いただき、クラフトビールも売れ行きが順調だと聞きました!

ようやく、製品もできて、ネーミングやデザイン・販路も準備できたので、完成披露会は何としても形になるようにと、自らSNSで発信し、地元新聞社や角田市の広報などに話を持っていき、1人でも多くの人に届けたいという気持ちで必死に頑張りました。


その結果、2025年10月25日(土)の完成披露会には市長にも来ていただき、当日用意していた200本が即完売する盛況ぶりでした。


SNSでも良い反応をいただき、本当に角田市の愛される商品・観光資源としてのポテンシャルを感じました。


イベントだけにとどまらず、反響として、東北だけでなく、東京の発酵デパート様にも卸させていただくことができました。今回用意した合計700本は2025年中に売り切れるペースで多くの方に、お手にとっていただけました。


4月から約半年間、様々な困難がありましたが、何とかやり遂げることができ、地元の方々にも喜んでいただけたので、本当にやって良かったなと思っています。


今後の展望

3.今回も多くの方を巻き込んでの結果となりましたが、来年以降もチャレンジされるのでしょうか?今後の展望について教えてください。

今回、初めての取り組みで700本製造を行いましたが、有り難いことに年内の売り切れが予想されています。


売れ行きや、市内外の方々の反応から来年も継続製造が決定し、定番商品と季節限定の2種類を作成する予定です。


定番商品の方は、ISHINOMAKI HOP WORKS 様のフレーバーに角田産の原材料を入れ、新たにラベルを変更し定番商品として販売します。現在販売しているお米のフレーバーに関しては、秋の季節限定商品にして季節の定番商品として販売する予定です。


また、完成お披露目会の後に、角田で「だて正夢」「つや姫」「ひとめぼれ」等の品種で米作を行っている面川農場様から、次は自分の田んぼで作った米を提供したいと連絡をいただき、来年以降は面川農場様にもご協力いただくことになりました。


「角田のまど」を作り続けてもらうためには、安定的に売れ続けることが大事なので、地域ブランドとして地元の人に認めてもらうために、道の駅以外にも販路を見つけることと、地域の方にさらに知ってもらうための施策も両軸で今後は考えていきます。


さいごに

「私の地元には何もない」地方出身の方とお話すると多くの方から、このような言葉を聞くことがあります。


ただ、そう言っている人の数だけ自分の地元が嫌いと言っている人が存在しているわけではなく、皆自分が育った地域や関わった地域に愛着があります。


たしかに、他の地域に対して自慢できるようなものは何もなく、どこにでもあるような田舎の風景が広がっているだけかもしれません。


しかし、今回の「角田のまど」を立ち上げた粟野さんから教わったことは、地方には資源があり、人のぬくもりがあり、唯一無二の物を創り上げる力があるということでした。


どこにでもあるような田舎の風景は、誰かにとってはかけがえのないものであり、缶ビールを窓に見立てて地域を覗き、対話することでその個性が見えてくるかもしれません。


名前:粟野 ひより

所属:東北芸術工科大学 デザイン工学部 企画構想学科

SNS:(角田のまど)https://www.instagram.com/kakuda_beer/




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