『日本のビール文化を変えたい』—— 思いが結果に繋がった過程とは?ー株式会社ヤッホーブルーイングー
樋口ありさ

全てはビールを通じてFanを!



—— 本日はヤッホーブルーイングのSDGsや地域創生の取り組みをお聞きしたいと思っています。

それが、SDGsに当てはめて何かに取り組んできたわけでないんです。

もともと「ビールを通じて幸せを感じてもらいたい」という思いで25年間クラフトビールづくりに携わってきました。

たとえば、余剰した業務用のビールを元に蒸留酒を製造するプロジェクト「未来ヅクリ2020」もその一環でした。新型コロナウィルスの影響で飲食店が休業したことで、12,000Lつまりビール樽800本分の販売予定だったビールが余ったんです。



余剰したクラフトビール12,000L分の一部



弊社では約20年前に似たような出来事がありました。

「地ビールブーム」が終息し経営が赤字だった時代に、缶ビールが大量に売れ残ってしまったんです。賞味期限内で完売できずに余ったビールを社員が飲む訳にもいかず為す術がありませんでした。

なぜなら、税金の問題が絡んでいるからです。日本でお酒をつくり出荷するには、法律に従って酒税を納める必要があります。その製品が売れずビールを廃棄した場合は、納めた税金が戻ってくる仕組みなんです。返税のために、泣く泣く、社員自らの手でビールの蓋を開けて大量廃棄しました。

経営のためには仕方のない行動でした。しかし、思いをもって製造しているだけあって、捨てるのがとても辛かった。そんな思いは二度としたくない。

何とか廃棄せずに済む方法を探した結果、長野県の老舗酒蔵「戸塚酒造」さんの協力を頂いて、ビールを原料とした蒸留酒を販売することができました。結果的にSDGsの目標に含まれるフードロス削減に繋がりましたが、「愛情を込めたビールを捨てたくない、少しでも楽しんでもらいたい」という社員の思いが起点となった活動でした。


余剰したビールをもとにつくった蒸留酒「未来ヅクリ2020」



—— SDGsというよりも「ビールで喜んでもらいたい」という思いが生んだ行動だったんですね


そうですね。「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションを掲げて経営してきました。

日本で主に流通しているビールは「キレ」があり、スッキリとした喉ごしや苦みといった特色があり、画一化していると考えています。フルーティーな香りや深いコクなど様々な特徴を持つ弊社の製品を提供し広げることで、ビール市場に革命を起こしたい。お酒の選択の幅を広げ、美味しいクラフトビールを通して幸せをお届けしたいという思いで日々活動しています。

また、弊社の製品の1つである「よなよなエール」を飲むファンのみなさんは「仲間づくり」も楽しんでいると感じています。弊社ではファンの方向けに、様々な観点で弊社のクラフトビールを楽しめる「よなよなエールの超宴」などのイベントを開催しています。年齢や性別などの垣根を超えてビールを酌み交わす。そこから繋がりが生まれ、その後も交流している方たちが多くいらっしゃいます。

ビールの美味しさや人との繋がりが生んだ幸せが、その時だけでも仕事やプライベートなどそれぞれが抱える様々な問題を取り除けるのかもしれない。その輪づくりを日本に留まらず広げていき、「目指せ世界平和!」なんて言っています。


その実現のためにも、まず身近でできる最善を尽くしたいんです。それは、お客様だけではなく、地域や社員に対しても同じように思っています。

たとえば、育児休業や産後に復職しやすい環境を整えること。2021年度に育児休業取得対象になったスタッフは全員育児休業を取得しました。

世界60ヵ国以上で従業員の働きがいに関する調査を実施している「Great Place to Work」が主催する「日本における「働きがいのある会社」ランキング」でベストカンパニーに6年連続選出いただいているのも、社員の幸せを願って活動してきたからと考えています。


女性だけではなく男性に対しても育児休業を取得しやすい文化が形成されている


スモールステップから大きな地域貢献に

—— 身近にできる最善を尽くして行動されてきたんですね。地域に対して貢献してきたことは何ですか?

拠点である地元産の大麦やホップをビールに使用しています。

弊社の製品に「軽井沢高原ビール」というのがあります。コンセプトは「軽井沢を愛する気持ちから生まれた、軽井沢を愛する人のビール」。そのため、軽井沢の方に愛されるビールを目指しています。

だからこそ「軽井沢産の原材料を使ったビールをつくりたい」と、ご縁のあった地元の生産者の方の大麦やホップを原材料の一部として使っています。


軽井沢産ホップの栽培を8年前から続ける

そのビールを販売することで、生産者の方に還元したい。

まだまだ使用している割合は少ないですが、地域に根ざした原材料を増やしていきたいと考えています。

そして、ビールの売上の一部を、自然や歴史的景観の保護団体「軽井沢ナショナルトラスト」「軽井沢ワイルドフォレスト」に寄付するなどの活動も行っています。

これからも多角的に少しでも地域のお役に立ちたいです。


「軽井沢高原ビール ナショナルトラスト」の売り上げの一部を寄付している


—— 会社全体で「地域に還元したい」という思いをお話から強く感じました。「地域に貢献している」と実感している社員も多いのでは?

実はそうでもないんです。

社内で調査した所、地域に貢献していると実感している社員が少なかった。

創業してから8年間赤字続きでビール製造に専念していました。利益を得て自治体に税金を納めたり、雇用を増やしたりする以外で地域貢献の活動をする余裕がなかったのも正直なところです。

現在は経営が軌道に乗ったことで、社員が全国から集まるようになりました。本拠地を置く長野県出身の社員の割合は2割程度です。

しかし「働いている地域に貢献したい」という声が多かった。

そこで、地域貢献に取り組む部署横断プロジェクトが発足し、手始めにオフィス周辺道路のゴミを拾う社内イベントを2021年に実施したんです。新型コロナウィルスの感染を鑑みて参加者を15名に絞りましたが、社内では予想以上に反響がありました。

今後は規模や参加人数を増やして、社員が地元の良さを少しでも理解する機会を提供したいと考えています。

クラフトビールで地域から笑顔に

ヤッホーブルーイング社員の集合写真(2019年4月撮影)

—— ゴミ拾いの他にも今後取り組みたいことがあれば教えてください。

地元の方にビールを提供し楽しく交流する機会を提供したいと考えています。

ビールの会社なので、やっぱりビールを通じて笑顔になるきっかけを届けたい。

そして、多様なクラフトビールを日本中にもたらすためにも尖ったクラフトビールをつくり続けたいですね。

2022年に新製品を発表予定なので、楽しみに待っていただけたらと思います。

—— 本日はお時間頂きありがとうございました。

企業名

株式会社ヤッホーブルーイング

所在地

〒389-0111 長野県軽井沢町長倉2148

創業年

1997年

代表者

井手直行

事業内容

クラフトビール製造および販売

WEBサイト

https://yohobrewing.com/

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